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術前に鑑別し得た骨盤腹膜子宮内膜症性嚢胞の1例
言語: Japanese
出版者: 静岡産科婦人科学会
公開日: 2022-03-23
キーワード: extra ovarian endometrioma, laparoscopic
surgery, diagnosis
作成者: 向, 亜紀, 成味, 恵, 中山, 毅, 菊池, 卓
メールアドレス:
所属:
メタデータ
http://hdl.handle.net/10271/00004092URL
静岡産科婦人科学会雑誌 (ISSN 2187 -1914)
2022 年 第 11 巻 第 1 号 51頁
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術前に鑑別し得た骨盤腹膜子宮内膜症性嚢胞の 1 例
A case of pelvic peritoneal endometrioma predicted before
surgery
JA 静岡厚生連 静岡厚生病院 産婦人科 1),浜松医科大学産婦人科学教室 2)
菊池レディースクリニック 3)
向 亜紀 1)、成味 恵 2)、中山 毅 1)、菊池 卓 3)
Department of Obstetrics and Gynecology, Shizuoka Kosei Hospital1)
Department of Obstetrics and Gynecology, Hamamatsu University School of Medicine2)
Kikuchi Ladies clinic3)
Aki MUKAI1), Megumi NARUMI2), Takeshi NAKAYAMA1), Suguru KIKUCHI3)
キーワード:extra ovarian endometrioma、laparoscopic surgery、diagnosis
〈概要〉
子宮内膜症が卵巣外で嚢胞形成することは稀で
ある。今回、術前検査で内膜症性嚢胞が疑われ、
腹腔鏡下摘出術により骨盤腹膜子宮内膜症性嚢
胞と診断された症例を経験した。 【症例】35歳、
2 妊 0 産。挙児希望で近医を受診し骨盤内腫瘤
を指摘され、精査目的に当院紹介となった。経
腟超音波検査上両側卵巣は正常で、それらとは
別に 5 cm 大の腫瘤が子宮背側にあり、MRI 検
査上変性子宮筋腫あるいは内膜症性嚢胞が疑わ
れた。確定診断目的の腹腔鏡下摘出術を施行す
ると、子宮・両側付属器は肉眼的に正常で、腫
瘤は骨盤腹膜子宮内膜症性嚢胞と診断された。
【結論】両側卵巣と離れて描出された骨盤内腫
瘤であっても、MRI で典型的な内膜症性嚢胞
の信号を示すものは卵巣外内膜症性嚢胞も鑑別
の一つである。
Abatract
It is unusual for endometriosis to form an
extra-ovarian endometrioma. We presented a
case of pelvic peritoneal endometriotic cyst,
which pre -operatively was thought to be an
extra-ovarian endometrioma. After a
laparoscopic surgery, pathological
examination revealed the mass to be a pelvic
peritoneal endometrioma. [Case] A 35 -year-
old G2P0 woman visited a clinic hoping to
get pregnant. She was diagnosed of a
peritoneal cyst and came to our hospital for a
detailed examination. Using sonography, a
mass of about 5 cm was detected in the
posterior uterus, and both ovaries were
normal. The MRI study suggested that the
mass was either a denaturing myoma of the
uterus or a secondary-ovarian endometrioma.
We performed a laparoscopic operation for
excision of the mass and sent it for a
pathological examination. We did not detect
any abnormal finding in the uterus and both
adnexa. A diagnosis of an endometriotic cyst
was made following the pathological
examination. [Conclusion] We finally reached
a definitive diagnosis by laparoscopic
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operation. This suggested that extra -ovarian
endometrioma may be considered when a
pelvic mass that is far from both ovaries is
found, and MRI showed a typical
endometriotic sign.
〈緒言〉
子宮内膜症は女性の 5-10 %に生じる良性疾
患であり 1)、日常診療で比較的見ることの多い
疾患である。月経困難症の主原因であり、不妊
症の原因になることも多い 2)。子宮内膜症は
様々な部位に生じ、卵巣や腹膜、腸管にも病変
を有することがある。しかし、卵巣以外で嚢胞
性腫瘤を形成することは稀であり、術前に卵巣
外内膜症性嚢胞と診断することは困難である。
今回、子宮背面の骨盤内腫瘤に対し、卵巣外内
膜症性嚢胞も鑑別診断の一つと考え腹腔鏡下手
術を行った結果、骨盤腹膜子宮内膜症性嚢胞と
診断された症例を経験した。過去の卵巣外内膜
症性嚢胞 10 例についてまとめた考察を加えて
報告する。
〈症例〉
35 歳、2 妊 0 産
主訴:挙児希望、骨盤内腫瘤
妊娠歴:人工妊娠中絶 1 回、自然流産1回
月経歴:初経 12 歳、月経周期 27 日・整、月
経量少
既往歴:特記すべきことなし
現病歴:挙児希望にて不妊クリニックを受診し
たところ、経腟超音波検査上 5 cm 大の骨盤内
腫瘤影を指摘され、精査加療目的に当院紹介と
なった。
初診時所見
腟鏡診:子宮腟部に異常所見なし
内診:子宮は鶏卵大、前屈、可動性は不良
血液検査:LDH 124 U/L, CEA 0.8 ng/mL,
CA19-9 5.3 U/mL, CA125 12.1 U/mL
経腟超音波検査上、子宮背側に 5 cm 大の腫瘤
を認めるが、両側正常卵巣を確認することがで
きた。境界明瞭な腫瘤の内容は均一、低輝度で
あり、充実部分はみられなかった(図 1)。両
側卵巣と腫瘤の連続性はないと考えられた。
図 1 超音波断層法検査
子宮背側に腫瘤を認めた。
精査のため MRI 検査を行った。子宮背側に境
界明瞭な約 52 mm の腫瘤が存在し、T1 強調
やや高信号を呈し、T2 強調画像では不均一な
高信号で描出された。脂肪抑制効果はなく、拡
散強調画像は高信号 であった(図 2)。左正常
卵巣は確認できたが、右卵巣は不明瞭であった。
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図 2 MRI 画像 子宮背側の腫瘤
上: T2 強調画像 不均一な高信号を呈した
中: T1 強調画像 淡い高信号を呈した
下: T1 強調画像(脂肪抑制)
MRI 検査上は変性子宮筋腫あるいは内膜症性
嚢胞の疑いであった。確定診断には摘出術が必
要であったが、月経困難症症状はなく、腫瘤の
大きさも茎捻転予防を必要とする大きさではな
く、腫瘤が卵巣由来であった場合の手術による
卵巣予備能低下が危惧された。そのため、前医
不妊クリニックにおける卵胞刺激と採卵、凍結
卵保存を施行後に再度腫瘤を評価することと
なった。
クエン酸クロミフェンによる卵胞刺激と採卵、
により凍結卵 5 個を得て、当院初診時より 5
か 月後に当院再診となった。 再度 施行した
MRI 検査では、腫瘤は約 34 mm に縮小してい
た(図 3)。信号強度は初回検査と同様であり、
両側卵巣は腫瘤と離れた場所に正常に描出され、
変性子宮筋腫あるいは副卵巣の内膜症性嚢胞が
疑われた。妊娠前に確定診断行うことが妥当と
考え、本人の強い希望もあり、腹腔鏡下手術の
方針となった。
A
C
B
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図 3 不妊治療後、再診時の MRI 画像
A: T2 強調画像 腫瘤は縮小した。
B: T2 強調画像 腫瘤と離れた部位に右卵巣を
認めた。
C: T2 強調画像 腫瘤と離れた部位に左卵巣を
認めた。
手術所見:全身麻酔下に、載石位をとり、臍正
中に縦切開を行い 、オープン 法で 12 mm ト
ロッカーを挿入した。気腹を開始し、ダイアモ
ンド位に 5 mm ポートを配置した。腹腔内所
見は、子宮および両側卵巣は正常大であり、子
宮漿膜下筋腫や卵巣内膜症性嚢胞の所見は認め
なかった。子宮背面 と S 状結腸腸間膜が癒着
しており、左卵管峡部はその癒着に巻き込まれ
て直角に引き連れていた。腸間膜を剥離すると、
黄色で表面円滑の腫瘤が子宮背面に付着してい
た。腫瘤周囲に明らかな栄養血管は認めず、腫
瘤と左卵巣とは近接していたが、連続性は認め
なかった(図 4)。 腫 瘤の子宮背面から の剥離
は容易であったが剥離の際に腫瘤の一部が破綻
し、チョコレート様の内容液が漏出した。腫瘤
核出を行い、腫瘤を臓器収容袋に収容し、臍部
より体外へ回収した。手術時間は 1 時間 15 分、
出血量 12 g であった。骨盤内に摘出した嚢胞
以外に、明らかな内膜症病変は認めず r-
ASRM 分類 8 点であった。病理組織学的検査
は、子宮内膜症性嚢胞であった。
術後 4 日目に 術後合併症を認めず、退院と
なった。前医にて凍結融解胚移植によって妊娠
が成立した。
図 4 腹腔内所見
塗りつぶした▲で囲まれた部位に腫瘤は両側卵
巣とは離れた部位に存在し、内溶液はチョコ
レート様であった。
〈考察〉
子宮内膜症の発症機序は、子宮内膜移植説、
体腔上皮化生説など様々な説が唱えられている
が、いまだ十分に解明されてはいない。
Nisolle ら 3)は、子宮内膜症病変の発症機序は
卵巣、骨盤腹膜、直腸腟中隔でそれぞれその発
症機序が異なるという説を提唱しており、その
中で骨盤腹膜は子宮内膜移植説にて子宮内膜症
が発症し、卵巣子宮内膜症性嚢胞は体腔上皮仮
性説により発症すると考察されている。本症例
と同様に卵巣外で内膜症性嚢胞を生じた症例に
おいては、その嚢胞形成という特徴から、卵巣
内膜症性嚢胞と同様に体腔上皮仮性説を支持す
る文献が多い
4)-6)。本症例も骨盤腹膜に生じて
いるが嚢胞形成をした内膜症性嚢胞であり、上
皮化生説の可能性も考えられるが、本症例から
その確定は不可能である。今後の卵巣外内膜症
性嚢胞症例の蓄積とその特徴の解明が待たれる。
子宮内膜症は卵巣以外に腫瘤を形成すること
は一般的ではないことから、術前に卵巣外内膜
症性嚢胞を積極的に疑うことは困難である。そ
の発症頻度を示した報告は見当たらず、医学中
央雑誌での「卵巣外子宮内膜症性嚢胞」 「骨盤
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腹膜子宮内膜症性嚢胞」を検索語として用いた
検索によれば、卵巣外内膜症性嚢胞の報告は 9
文献 10 症例であった。本症例も術前の MRI
検査で典型的な内膜症性嚢胞の信号を呈してい
たが、正常卵巣が腫瘤と離れて位置していたこ
とから、鑑別疾患の一つとなっていたが内膜症
性嚢胞を強く疑うことは困難であり、確定診断
を目的として手術を施行した。術前に内膜症性
嚢胞を積極的に疑うことができれば、手術の回
避も可能となるかもしれない。
術前に卵巣外内膜症性嚢胞を強く疑う因子が
あるかを検討するために、術前検査結果の詳細
の記載を確認できた卵巣外内膜症性嚢胞 9 文
献 10 症例の詳細をまとめ(表 1)、 特 にMRI
検査所見に着目した。年齢は 34~63 歳であり、
過去の報告中、術前に内膜症性嚢胞を積極的に
疑われた症例はなく、確定診断目的に全例で摘
出術を施行されていた。また、内膜症性嚢胞以
外に子宮内膜症病変が指摘されていない症例が
9 例と多かった。MRI 検査において、全症例
で T1 強調高信号、T2 強調で低信号から高信
号と様々な信号強度を示し、脂肪抑制では、記
載のあった 4 症例すべてで脂肪抑制を認めず、
6 症例では記載がなかった。MRI 画像の信号
強度を記載してあった 9 例中 8 例で術前の
MRI 検査では腫瘤内容液が血液成分の信号を
示す典型的な内膜症性嚢胞の信号を呈していた。
典型的な血液像を示さなかった 1 例は子宮内
膜症由来の粘液性癌症例であった
7)。本症例で
も、術前の MRI 検査にて T1 強調、T2 強調と
もに高信号で、脂肪抑制効果なしの典型的な内
膜症性嚢胞を示す MRI 検査所見であった。ま
た腫瘤は両側卵巣とは離れていた。以上から、
MRI 検査にて内膜症性嚢胞の特徴を有してい
る腫瘤は、両側卵巣と連続性がなくとも、また
子宮内膜症による臨床症状がなくとも術前に卵
巣外内膜症性嚢胞を鑑別に挙げることができる
と考えられた。
卵巣外内膜症性嚢胞に対する外科的摘出の適
応のコンセンサスはない。しかし卵巣内に発生
する内膜症性嚢胞と同様に、嚢胞を形成するこ
とから異型・悪性化の発生母地となる可能性が
推測される
13)。過去の卵巣外内膜症性嚢胞報
告例のうち、竹内ら 8)と Marchand ら 10)は悪
性転化した症例を報告しており、柳らは異型を
伴う症例を報告している 5)。術前検査で異型や
悪性腫瘍が疑われる場合や確定診断を必要とす
る場合は、外科的摘出による病理組織学的検査
が必要であると考えられる。卵巣外内膜症性嚢
胞は、卵巣とは離れているため外科的手術によ
り妊孕性を低下させる可能性は無く、むしろ手
術による子宮内膜症腹膜病変の除去が妊孕性を
改善させる可能性もある
14)。報告された 10 症
例のうち報告年の 新しい 7 例では腹腔鏡下あ
るいは腹腔鏡補助下手術を施行されていた。腹
腔鏡下手術は低侵襲で十分な腹腔内検索が可能
であるため、卵巣外内膜症性嚢胞症例にも有用
である。
結論
卵巣外内膜症性嚢胞は稀であるが、腫瘤が正
常卵巣と連続性のないものでも MRI 検査にて
典型的な内膜症性嚢胞の特徴を示す場合は、鑑
別疾患の一つと考えるべきである。確定診断に
は腹腔鏡下手術が有用である。
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表 1 卵巣外子宮内膜症性囊胞 10 症例の詳細(医学中央雑誌データベースより抽出)
〈参考文献〉
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