術前に鑑別し得た骨盤腹膜子宮内膜症性嚢胞の1例

In: Journal of the Shizuoka Society of Obstetrics and Gynecology · 2022 · vol. 11(1) , pp. 51–57 · W7145160026
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Abstract

It is unusual for endometriosis to form an extra-ovarian endometrioma. We presented a case of pelvic peritoneal endometriotic cyst, which pre-operatively was thought to be an extra-ovarian endometrioma. After a laparoscopic surgery, pathological examination revealed the mass to be a pelvic peritoneal endometrioma. [Case] A 35-yearold G2P0 woman visited a clinic hoping to get pregnant. She was diagnosed of a peritoneal cyst and came to our hospital for a detailed examination. Using sonography, a mass of about 5cm was detected in the posterior uterus, and both ovaries were normal. The MRI study suggested that the mass was either a denaturing myoma of the uterus or a secondary-ovarian endometrioma. We performed a laparoscopic operation for excision of the mass and sent it for a pathological examination. We did not detect any abnormal finding in the uterus and both adnexa. A diagnosis of an endometriotic cyst was made following the pathological examination. [Conclusion] We finally reached a definitive diagnosis by laparoscopic operation. This suggested that extra-ovarian endometrioma may be considered when a pelvic mass that is far from both ovaries is found, and MRI showed a typical endometriotic sign.
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術前に鑑別し得た骨盤腹膜子宮内膜症性嚢胞の1例 言語: Japanese 出版者: 静岡産科婦人科学会 公開日: 2022-03-23 キーワード: extra ovarian endometrioma, laparoscopic surgery, diagnosis 作成者: 向, 亜紀, 成味, 恵, 中山, 毅, 菊池, 卓 メールアドレス: 所属: メタデータ http://hdl.handle.net/10271/00004092URL 静岡産科婦人科学会雑誌 (ISSN 2187 -1914) 2022 年 第 11 巻 第 1 号 51頁 51 術前に鑑別し得た骨盤腹膜子宮内膜症性嚢胞の 1 例 A case of pelvic peritoneal endometrioma predicted before surgery JA 静岡厚生連 静岡厚生病院 産婦人科 1),浜松医科大学産婦人科学教室 2) 菊池レディースクリニック 3) 向 亜紀 1)、成味 恵 2)、中山 毅 1)、菊池 卓 3) Department of Obstetrics and Gynecology, Shizuoka Kosei Hospital1) Department of Obstetrics and Gynecology, Hamamatsu University School of Medicine2) Kikuchi Ladies clinic3) Aki MUKAI1), Megumi NARUMI2), Takeshi NAKAYAMA1), Suguru KIKUCHI3) キーワード:extra ovarian endometrioma、laparoscopic surgery、diagnosis 〈概要〉 子宮内膜症が卵巣外で嚢胞形成することは稀で ある。今回、術前検査で内膜症性嚢胞が疑われ、 腹腔鏡下摘出術により骨盤腹膜子宮内膜症性嚢 胞と診断された症例を経験した。 【症例】35歳、 2 妊 0 産。挙児希望で近医を受診し骨盤内腫瘤 を指摘され、精査目的に当院紹介となった。経 腟超音波検査上両側卵巣は正常で、それらとは 別に 5 cm 大の腫瘤が子宮背側にあり、MRI 検 査上変性子宮筋腫あるいは内膜症性嚢胞が疑わ れた。確定診断目的の腹腔鏡下摘出術を施行す ると、子宮・両側付属器は肉眼的に正常で、腫 瘤は骨盤腹膜子宮内膜症性嚢胞と診断された。 【結論】両側卵巣と離れて描出された骨盤内腫 瘤であっても、MRI で典型的な内膜症性嚢胞 の信号を示すものは卵巣外内膜症性嚢胞も鑑別 の一つである。 Abatract It is unusual for endometriosis to form an extra-ovarian endometrioma. We presented a case of pelvic peritoneal endometriotic cyst, which pre -operatively was thought to be an extra-ovarian endometrioma. After a laparoscopic surgery, pathological examination revealed the mass to be a pelvic peritoneal endometrioma. [Case] A 35 -year- old G2P0 woman visited a clinic hoping to get pregnant. She was diagnosed of a peritoneal cyst and came to our hospital for a detailed examination. Using sonography, a mass of about 5 cm was detected in the posterior uterus, and both ovaries were normal. The MRI study suggested that the mass was either a denaturing myoma of the uterus or a secondary-ovarian endometrioma. We performed a laparoscopic operation for excision of the mass and sent it for a pathological examination. We did not detect any abnormal finding in the uterus and both adnexa. A diagnosis of an endometriotic cyst was made following the pathological examination. [Conclusion] We finally reached a definitive diagnosis by laparoscopic 静岡産科婦人科学会雑誌 (ISSN 2187 -1914) 2022 年 第 11 巻 第 1 号 52頁 52 operation. This suggested that extra -ovarian endometrioma may be considered when a pelvic mass that is far from both ovaries is found, and MRI showed a typical endometriotic sign. 〈緒言〉 子宮内膜症は女性の 5-10 %に生じる良性疾 患であり 1)、日常診療で比較的見ることの多い 疾患である。月経困難症の主原因であり、不妊 症の原因になることも多い 2)。子宮内膜症は 様々な部位に生じ、卵巣や腹膜、腸管にも病変 を有することがある。しかし、卵巣以外で嚢胞 性腫瘤を形成することは稀であり、術前に卵巣 外内膜症性嚢胞と診断することは困難である。 今回、子宮背面の骨盤内腫瘤に対し、卵巣外内 膜症性嚢胞も鑑別診断の一つと考え腹腔鏡下手 術を行った結果、骨盤腹膜子宮内膜症性嚢胞と 診断された症例を経験した。過去の卵巣外内膜 症性嚢胞 10 例についてまとめた考察を加えて 報告する。 〈症例〉 35 歳、2 妊 0 産 主訴:挙児希望、骨盤内腫瘤 妊娠歴:人工妊娠中絶 1 回、自然流産1回 月経歴:初経 12 歳、月経周期 27 日・整、月 経量少 既往歴:特記すべきことなし 現病歴:挙児希望にて不妊クリニックを受診し たところ、経腟超音波検査上 5 cm 大の骨盤内 腫瘤影を指摘され、精査加療目的に当院紹介と なった。 初診時所見 腟鏡診:子宮腟部に異常所見なし 内診:子宮は鶏卵大、前屈、可動性は不良 血液検査:LDH 124 U/L, CEA 0.8 ng/mL, CA19-9 5.3 U/mL, CA125 12.1 U/mL 経腟超音波検査上、子宮背側に 5 cm 大の腫瘤 を認めるが、両側正常卵巣を確認することがで きた。境界明瞭な腫瘤の内容は均一、低輝度で あり、充実部分はみられなかった(図 1)。両 側卵巣と腫瘤の連続性はないと考えられた。 図 1 超音波断層法検査 子宮背側に腫瘤を認めた。 精査のため MRI 検査を行った。子宮背側に境 界明瞭な約 52 mm の腫瘤が存在し、T1 強調 やや高信号を呈し、T2 強調画像では不均一な 高信号で描出された。脂肪抑制効果はなく、拡 散強調画像は高信号 であった(図 2)。左正常 卵巣は確認できたが、右卵巣は不明瞭であった。 静岡産科婦人科学会雑誌 (ISSN 2187 -1914) 2022 年 第 11 巻 第 1 号 53頁 53 図 2 MRI 画像 子宮背側の腫瘤 上: T2 強調画像 不均一な高信号を呈した 中: T1 強調画像 淡い高信号を呈した 下: T1 強調画像(脂肪抑制) MRI 検査上は変性子宮筋腫あるいは内膜症性 嚢胞の疑いであった。確定診断には摘出術が必 要であったが、月経困難症症状はなく、腫瘤の 大きさも茎捻転予防を必要とする大きさではな く、腫瘤が卵巣由来であった場合の手術による 卵巣予備能低下が危惧された。そのため、前医 不妊クリニックにおける卵胞刺激と採卵、凍結 卵保存を施行後に再度腫瘤を評価することと なった。 クエン酸クロミフェンによる卵胞刺激と採卵、 により凍結卵 5 個を得て、当院初診時より 5 か 月後に当院再診となった。 再度 施行した MRI 検査では、腫瘤は約 34 mm に縮小してい た(図 3)。信号強度は初回検査と同様であり、 両側卵巣は腫瘤と離れた場所に正常に描出され、 変性子宮筋腫あるいは副卵巣の内膜症性嚢胞が 疑われた。妊娠前に確定診断行うことが妥当と 考え、本人の強い希望もあり、腹腔鏡下手術の 方針となった。 A C B 静岡産科婦人科学会雑誌 (ISSN 2187 -1914) 2022 年 第 11 巻 第 1 号 54頁 54 図 3 不妊治療後、再診時の MRI 画像 A: T2 強調画像 腫瘤は縮小した。 B: T2 強調画像 腫瘤と離れた部位に右卵巣を 認めた。 C: T2 強調画像 腫瘤と離れた部位に左卵巣を 認めた。 手術所見:全身麻酔下に、載石位をとり、臍正 中に縦切開を行い 、オープン 法で 12 mm ト ロッカーを挿入した。気腹を開始し、ダイアモ ンド位に 5 mm ポートを配置した。腹腔内所 見は、子宮および両側卵巣は正常大であり、子 宮漿膜下筋腫や卵巣内膜症性嚢胞の所見は認め なかった。子宮背面 と S 状結腸腸間膜が癒着 しており、左卵管峡部はその癒着に巻き込まれ て直角に引き連れていた。腸間膜を剥離すると、 黄色で表面円滑の腫瘤が子宮背面に付着してい た。腫瘤周囲に明らかな栄養血管は認めず、腫 瘤と左卵巣とは近接していたが、連続性は認め なかった(図 4)。 腫 瘤の子宮背面から の剥離 は容易であったが剥離の際に腫瘤の一部が破綻 し、チョコレート様の内容液が漏出した。腫瘤 核出を行い、腫瘤を臓器収容袋に収容し、臍部 より体外へ回収した。手術時間は 1 時間 15 分、 出血量 12 g であった。骨盤内に摘出した嚢胞 以外に、明らかな内膜症病変は認めず r- ASRM 分類 8 点であった。病理組織学的検査 は、子宮内膜症性嚢胞であった。 術後 4 日目に 術後合併症を認めず、退院と なった。前医にて凍結融解胚移植によって妊娠 が成立した。 図 4 腹腔内所見 塗りつぶした▲で囲まれた部位に腫瘤は両側卵 巣とは離れた部位に存在し、内溶液はチョコ レート様であった。 〈考察〉 子宮内膜症の発症機序は、子宮内膜移植説、 体腔上皮化生説など様々な説が唱えられている が、いまだ十分に解明されてはいない。 Nisolle ら 3)は、子宮内膜症病変の発症機序は 卵巣、骨盤腹膜、直腸腟中隔でそれぞれその発 症機序が異なるという説を提唱しており、その 中で骨盤腹膜は子宮内膜移植説にて子宮内膜症 が発症し、卵巣子宮内膜症性嚢胞は体腔上皮仮 性説により発症すると考察されている。本症例 と同様に卵巣外で内膜症性嚢胞を生じた症例に おいては、その嚢胞形成という特徴から、卵巣 内膜症性嚢胞と同様に体腔上皮仮性説を支持す る文献が多い 4)-6)。本症例も骨盤腹膜に生じて いるが嚢胞形成をした内膜症性嚢胞であり、上 皮化生説の可能性も考えられるが、本症例から その確定は不可能である。今後の卵巣外内膜症 性嚢胞症例の蓄積とその特徴の解明が待たれる。 子宮内膜症は卵巣以外に腫瘤を形成すること は一般的ではないことから、術前に卵巣外内膜 症性嚢胞を積極的に疑うことは困難である。そ の発症頻度を示した報告は見当たらず、医学中 央雑誌での「卵巣外子宮内膜症性嚢胞」 「骨盤 静岡産科婦人科学会雑誌 (ISSN 2187 -1914) 2022 年 第 11 巻 第 1 号 55頁 55 腹膜子宮内膜症性嚢胞」を検索語として用いた 検索によれば、卵巣外内膜症性嚢胞の報告は 9 文献 10 症例であった。本症例も術前の MRI 検査で典型的な内膜症性嚢胞の信号を呈してい たが、正常卵巣が腫瘤と離れて位置していたこ とから、鑑別疾患の一つとなっていたが内膜症 性嚢胞を強く疑うことは困難であり、確定診断 を目的として手術を施行した。術前に内膜症性 嚢胞を積極的に疑うことができれば、手術の回 避も可能となるかもしれない。 術前に卵巣外内膜症性嚢胞を強く疑う因子が あるかを検討するために、術前検査結果の詳細 の記載を確認できた卵巣外内膜症性嚢胞 9 文 献 10 症例の詳細をまとめ(表 1)、 特 にMRI 検査所見に着目した。年齢は 34~63 歳であり、 過去の報告中、術前に内膜症性嚢胞を積極的に 疑われた症例はなく、確定診断目的に全例で摘 出術を施行されていた。また、内膜症性嚢胞以 外に子宮内膜症病変が指摘されていない症例が 9 例と多かった。MRI 検査において、全症例 で T1 強調高信号、T2 強調で低信号から高信 号と様々な信号強度を示し、脂肪抑制では、記 載のあった 4 症例すべてで脂肪抑制を認めず、 6 症例では記載がなかった。MRI 画像の信号 強度を記載してあった 9 例中 8 例で術前の MRI 検査では腫瘤内容液が血液成分の信号を 示す典型的な内膜症性嚢胞の信号を呈していた。 典型的な血液像を示さなかった 1 例は子宮内 膜症由来の粘液性癌症例であった 7)。本症例で も、術前の MRI 検査にて T1 強調、T2 強調と もに高信号で、脂肪抑制効果なしの典型的な内 膜症性嚢胞を示す MRI 検査所見であった。ま た腫瘤は両側卵巣とは離れていた。以上から、 MRI 検査にて内膜症性嚢胞の特徴を有してい る腫瘤は、両側卵巣と連続性がなくとも、また 子宮内膜症による臨床症状がなくとも術前に卵 巣外内膜症性嚢胞を鑑別に挙げることができる と考えられた。 卵巣外内膜症性嚢胞に対する外科的摘出の適 応のコンセンサスはない。しかし卵巣内に発生 する内膜症性嚢胞と同様に、嚢胞を形成するこ とから異型・悪性化の発生母地となる可能性が 推測される 13)。過去の卵巣外内膜症性嚢胞報 告例のうち、竹内ら 8)と Marchand ら 10)は悪 性転化した症例を報告しており、柳らは異型を 伴う症例を報告している 5)。術前検査で異型や 悪性腫瘍が疑われる場合や確定診断を必要とす る場合は、外科的摘出による病理組織学的検査 が必要であると考えられる。卵巣外内膜症性嚢 胞は、卵巣とは離れているため外科的手術によ り妊孕性を低下させる可能性は無く、むしろ手 術による子宮内膜症腹膜病変の除去が妊孕性を 改善させる可能性もある 14)。報告された 10 症 例のうち報告年の 新しい 7 例では腹腔鏡下あ るいは腹腔鏡補助下手術を施行されていた。腹 腔鏡下手術は低侵襲で十分な腹腔内検索が可能 であるため、卵巣外内膜症性嚢胞症例にも有用 である。 結論 卵巣外内膜症性嚢胞は稀であるが、腫瘤が正 常卵巣と連続性のないものでも MRI 検査にて 典型的な内膜症性嚢胞の特徴を示す場合は、鑑 別疾患の一つと考えるべきである。確定診断に は腹腔鏡下手術が有用である。 静岡産科婦人科学会雑誌 (ISSN 2187 -1914) 2022 年 第 11 巻 第 1 号 56頁 56 表 1 卵巣外子宮内膜症性囊胞 10 症例の詳細(医学中央雑誌データベースより抽出) 〈参考文献〉 1) 平田哲也. 第 2 章 生殖内分泌 2. 子宮内 膜症, 希少部位子宮内膜症. 産と婦 2021; 88 増 刊号: 202-209 2) Minici F, Tiberi F, Tropea A , et al. 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BMJ Case Rep 2013; 2013: 007730 静岡産科婦人科学会雑誌 (ISSN 2187 -1914) 2022 年 第 11 巻 第 1 号 57頁 57 11) 福岡佳代, 左時江, 永井美和子, 他. 膀胱子 宮窩に孤立性に存在した子宮内膜症性嚢胞の 1 例. 東京産婦誌 2014 ; 63 : 234-238 12) 長尾有佳里 猪飼恵, 坂堂美央子, 他. 診断 および治療に腹腔鏡下手術が有用であった卵巣 外子宮内膜症性嚢胞の 1 例. 日産婦内視鏡学会 2017 ; 33: 173-177 13) Kobayashi H, Yamada Y, Kawahara N, et al. Integrating modern approaches to pathogenetic concepts of malignant transformation of endometriosis. Oncol Rep. 2019; 41: 1729-1738 14) Opoien HK, Fedorcsak P, Byholm T, et al. Complete surgical removal of minim al and mild endometriosis improves outcome of subsequent IVF/ICSI treatment. Reprod Biomed Online 2011; 23: 389-395

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